『エロゲーとわたし』  最終回

2000年10月19日。
 誰か俺を『幸福の国2』へ連れて行ってくれぇ!! と、のっけから解らない人には全然解らない事を叫ぶ俺。失業した癖にエロゲーは買っている愚か者です。
 まぁでもそれがエロゲー魔道に墜ちた者の浪漫珠ってもんですよ。
 その上、金もないのに何を血迷ったのか衝動的にPC−FXのゲームソフトまで買ってしまいました。あの伝説の『こみっく ろーど』!! 『こみっく パーテ○』のパクリじゃないよ。『こみっく ろーど』は漫画家育成SLG。主人公はプロの漫画家を志す女の子。彼女は上京してボロアパートに住みつつ、食費、生活費、画材費を稼ぐためにバイトに精を出し一方で雑誌社への投稿を続けてプロの漫画家を目指すのだ!! エロシーンは無いぞ。
 このゲーム実は発売当時から買いたかったのですが、『PC−FXで欲しいゲームが3本以上出たらハードを買おう!!』と熱い決意を胸にたぎらせていたら、結局『ファーストKiss物語』とこの作品しか欲しいゲームが出ない内にPC−FXは滅亡してしまいましたとさ。合掌。
 ちなみにPSは『ネクストキング』の為に、SSは『サクラ大戦』の為に、DCは『北へ』の為に買いました。所有するコンシューマーゲームソフトの9割はギャルゲーです。
 さて、なんで今更買ったかと言えば、ゴーストに囁かれたとしか言いようが無く、気付いたら手にとっていたと言うのが客観的な説明。どこが客観的や!?
 こうやってパッケージを眺めていると、やりたくてやりたくて堪らなくなって来るのですが・・・なんと言う悲劇!! 俺はハードを持っていないのです。PSに入れても当然認識してくれない訳で溜息ばかりのロンリーハート。『Piaキャロットへようこそ』のPC−FX版と共にやるせない気持ちでいっぱいです。
 ああすっかり秋だなぁ。はふぅ。
 パソコンでPC−FXのゲームが出来るエミュレータープログラムって無いんですね。いやはやなんとも困った。秋葉原の妖しい裏道で『ニィサン、ぴーしーえふえっくすのはーどアルヨ』などと声を掛けられたら、ほいほい付いて行きかねない心理状態。その辺にハード落ちていないかな?

 なんて、どうでもいい近況報告ではじまった『エロゲーとわたし』最終回!!
 こういう形で終末が来るとは正直思ってなかったんです。
 結局『MAID iN HEAVEN』『ソドム2』『ドライブ・ミー・クレイジー!!』『核融合少女リップルちゃん』に関してはなーんも書けずに終わってしまいました。『MAID iN HEAVEN』に関してはムック本が出ているんで今更語ることも少ししか無かったんですが、他の3作品に関しては、きっともう語る機会もないんだろうな、と思うと、ちと寂しいです。
 もっとも、『ソドム2』は未発表、『ドライブ・ミー・クレイジー!!』は売れず、『核融合少女リップルちゃん』は非売品と、3作品とも裏街道ですから、ここで俺がとうとうと語っても、読者はそう大して関心も持てなかったろうと思えば、この辺で終わりなのは正解かもしれないです。

 振り返れば、色々なシナリオテキストを書いてきた物だと呆れます。我ながら一貫性がありません。『女郎蜘蛛』と『MAID iN HEAVEN』が同じシナリオライターだと思って無かった人も居るだろうと思います。
 まぁプロなんだから色々な傾向の物を書いているのは当たり前なんですが。

 よく『MAID iN HEAVEN』と同一のシナリオライターが書いたと間違えられるらしい『ラストチャイルド』は社長のシナリオです。
 二人とも馬鹿ゲーお気楽極楽ゲーは大好きで、『怪奇ドリル男の恐○』『バ○ガール』などと言う題名にそそられるタチですし『センチメン○の季節』が嫌いで森山塔が好きとか重なる部分は多いです。でも、『ラストチャイルド』の結末部と『MAID iN HEAVEN』の結末部(結婚エンド)の雰囲気の違い
は、そのまま俺と社長のシナリオライターとしての資質の違いでもあります。

 結局、社長は『ローリングストーンズ』で、俺は『たま』なのだろうか?

 ちなみに社長は俺の書いたシナリオの中で『核融合少女リップルちゃん』が一番好きだそうです。俺は『電撃ナースシリーズ』か『堕落の国のアンジー』かな。

 さて、様々な傾向のゲームのシナリオを書いてきた訳ですが、どれが俺の真の姿なのかと問われても、どれも俺だとしか答えようが無いです。
 俺の中では『女郎蜘蛛』と『MAID iN HEAVEN』の価値は変わらないのです。ただ力を入れた方向はかなり違って、『女郎蜘蛛』は幻想小説が念頭にあり、座右に久生十蘭と江戸川乱歩を置いていたのに対して、『MAID iN HEAVEN』の方は馬鹿ゲーが念頭にあり、座右に置いていたのは『愛
のフジツボ』と『炎の言霊 島本和彦名言集』だったという事はあります。

 この連載を読んでいる方は気付いている事と思いますが、『スーパーエレクト大戦SEX』『SEX2』『女郎蜘蛛』『MAID iN HEAVEN』『ソドム2』と俺がシナリオを書いた主要な作品は、ほぼ全て企画の始まりが俺じゃ無いのです。他人が与えてくれたキッカケを、いかに転がして自分の書ける物に
引き寄せるか・・・それが俺のほぼ一貫したシナリオ作法でした。
 だからこそシナリオの傾向や題材に一貫性が無いわけです。
 たまに、いや・・・今更いい子ぶってもしょうがないので正直に言うと、しょっちゅうですが、アボガ○パワー○の○槻氏やリー○の高○○也氏、ア○スソフトのとり氏、KE○の久○氏、麻○氏など、一貫性のあるシナリオを書き続ける人達が羨ましいなぁ、と思ったりする事があります。
 やっぱり、そうやって前面に出ないと、ユーザーの間に名が知れ渡ってシナリオライターの名前で作品を買わせる事は出来ないんだろうなぁ。俺もいっぱい売れた作品に名を連ねて、ムック本や雑誌でインタビューされて特集されて、同人誌がうじゃうじゃ出て、コスプレーヤーもうじゃうじゃ出て、ついでにフィギアもうじゃうじゃ出て、内容について事細かに討論されて、漫画化されてアニメ化されて小説化されてトレーディングカードが出てボーナス一杯貰ってウハウハしてぇなぁ。この山吹色がたまりまへんぜ、へっへっへっへ・・・・・・。
 結局、もうかってるのを嫉妬しているだけやん。いやぁねぇ。
 卑しい、卑しい。我に返って自己嫌悪に沈む事もあります。
 俺は名誉欲も物欲も人並み以上にありますから『俺は俺でいいじゃん』とか思いたいのだけど、ゲームの売り上げが悪かったり、気分が落ち込んだりすると、そういう考えに激しく囚われてしまいます。結局は作品の魅力の差なので自分に跳ね返ってくるだけなんですけどね。

 でも、ゲームが魅力的なのは自分一人で作るので無い事だと俺は思うのです。
自分の中からは決して出て来ない物をなんとか捉えようと悶える心の動きが、自分の枠を突破させていく・・・それがゲームを作ると言う行為の魅力の根本にあると思うのです。負け惜しみみたいに思われるかもしれないけど、『女郎蜘蛛』も『MAID iN HEAVEN』もそうやって作ったのです。
 それは企画の出発点が俺自身である作品『犬』『核融合少女リップルちゃん』『輪恥』や虎井さんと共同企画だった『ドライブ・ミー・クレイジー!!』でも同じで、グラフィックや音楽、システムが相乗効果を生んで、自分一人では辿り着けない場所に飛んでいけるのです。

 もっともこれは、共同作業が必要な全ての職業で感じられる喜びで、別にエロゲーシナリオライターだけの感覚では無いのでしょう。

 そういう作業に大きな喜びを見いだすのは、ある意味では俺は自分の主張が余り無いシナリオライターだからなのかもしれないです。
 俺の事を良く知ってる周りの人達は、『安心しろ。おめぇは自己主張が強くて強くて困ったちゃんだ』と皆言うだろうな、と思うのですが、まぁ聞いて下さい。
 正直な所、俺には一貫したテーマとかも無いし、世の中に訴えたい事があるわけでも無いんです。だから『たま』かな? と言った訳です。
 基本的に奇跡とか信じてないし、愛が全てを救うとも思えないし、友情は無い、とは思わないけど、相手に期待しすぎるのは傲慢だと思うし、裏切られたら怒るのは当然だけど、人間にどこまで強さを期待していいのか解らないし、宗教を信じるのは自由だと思うけど他人に押しつけられるのは嫌だし、純粋な善人は、純粋な悪人と同じくらいおぞましい絵空事だと思うし、輪廻転生を繰り返す恋人達とかも道具立てとしては嫌いじゃないけど、結局は本当の所昔の相手が好きで、今目の前にいる相手はどうでもいいのか? と思ってしまうと滅茶苦茶不実な感じで好きになれない。
 純愛とかも実は良く解らなくて、色々な愛があるだけだろうと思うし、親子関係だって無理矢理修復する必要など無い場合だってあるだろうし、敬われなくて当然の親だっているだろう。
 こういったモヤモヤを抱えているので一つのメッセージに結論づけるのには抵抗があるのです。それゆえに、俺はゲームの持つマルチシナリオ・マルチエンディングという性質に強く心引かれてしまうのです。
 実は『犬』以外のゲームは全部マルチエンドなんですよね。

 他人が作ったゲームをする場合は別で、俺は結構簡単に泣くし、余り過度な物でなければ、奇跡が起こってもOKで、感動さえするんですが、自分でシナリオ書いていると信じられない物はやっぱり信じられない。個人的な理由や情動が無くて大義の為だけに行動する人間は書いていて信じきれない。俺自身が信じきれないキャラクターは書くことが出来ないので、結局、個人的な欲望を抱えた人間
達が右往左往するばかりになる。
 だから恋愛物が好きなのでしょう。なぜなら恋愛は究極的な個人と個人の情動の絡み合いを書く物だから。それがSMになったりすると『女郎蜘蛛』になり、馬鹿が入ると『MAID iN HEAVEN』になる。
 この世にあるのは個人と個人の状況に応じて変化する関係性の網の目で、それが縮まったり広がったりほつれたり破けたりして、そこにドラマが生じたりする。
そういう事だと思っている。全ては個人と個人の関係に収斂していく。
 それを見つめて追い掛けて俺はシナリオを作っていく。

 これが一貫したテーマといえばテーマかなぁ。

 例を挙げれば『女郎蜘蛛』での中畑伊佐治がその典型で、あの世界で彼は、大体の場合破滅してしまうのだけど、それは彼が悪だからでは無くて、未沙緒と関わってしまったからなのです。
 未沙緒に惚れさえしなければ、伊佐治はケチな詐欺を続けて、旨く行ったり行かなかったりしつつも、それなりに気楽に世を渡ったと思います。彼は決して趣味がいい人間じゃ無いが、変態行為だって話のネタにする程度で、あそこまでハードなプレイをする事も無かったろうし、おそらく女子供相手にあそこまで悪辣な事をする事も無かったろう。勿論、彼は善人じゃないけど、純粋な悪人と言うわけではない。単にああいう少々困った人なのだ。
 他社の作品で恐縮だけど『果てしなく青い、こ○空○下で・・・』の堂島とは違う(別にこの作品をけなしている訳じゃなくて、典型的な悪人類型と言う事。
最近やったエロゲーに出てきた悪人の中で、一番印象に残ったと言う以上の意味は無い。プレイ中、堂島いつかコロスと思うほど立派な悪人です)。
 だからこそ蝶子は伊佐治の見開いたまま事切れた目を指で閉じてやるのだし、清邦は内心しょーがない奴だと思いながらも、伊佐治の友達だったのです。

 運命やしがらみに絡め取られた人間達・・・『女郎蜘蛛』のテーマはまさにそれだったし、『MAID iN HEAVEN』が馬鹿ゲーになったのは、主人公となぎさの性格が固まったまさにその瞬間で、あの二人の組み合わせじゃ、深刻になりようがなかったからだ。
 もし俺がそれ以外のテーマを無意識に持っているなら、それはシナリオを組み上げて、キャラクターを捕まえて、手探りして作り上げていく後についてくる物だと思っている。

 みささぎらんに言わせると、俺のシナリオは皆、実に俺らしいそうで、結局はどう書いても俺は俺でしか無いと言うことなんだろう。良く解らないけど。
 誰か俺の作品に流れる一貫したテーマとか、どの作品にも繰り返し登場するモチーフとかのレビューでも書いてくれないかなぁ。

 ここまで書いた文章を読み返すとなんか偉そうだ。
 考えてみれば取り立てて書くほどの事も無いのかも知れない。
 制約が無い仕事があるわけも無く、当然プロなら自分の思い通りにはならない訳で、その制約の中でいかに仕事をするかが問題なのだから、制約の中で自分の書きやすいように問題を噛み砕いて解決するのは当然の事だ。
 テーマだって、話を解りやすくする為にそうしているだけで、真意は全然別の所にあるのかもしれない。他のシナリオライターとこういう根本問題を話した事がほとんど無いから、どう考えているかは解らない。
 他社や他ブランドのシナリオライターと話した事って、コミケで3回くらいあるだけだからなぁ。しかも3回とも同じ人だ。前回の夏コミの時もあって話したけれど、こんな話はしなかった。その時だって俺ばっかり話していた様な気がする。実は迷惑がられていたりして。話す度に、この人と俺はどこか似ているなぁ、とか思うのだけど・・・その人が書くシナリオもテーマと言うよりはキャラクター同士の関わり合いに重点を置いた物だったから(俺がプレイしてそう思っているだけで、実は違うのかも知れないが)結局の所一般的では無いのかも知れない。

 エロゲーシナリオライターを十人くらい集めて座談でもしてみたら、面白いかも知れない。どこかの雑誌でやらないかなぁ。
 でもみんな本当の事なんて言わないような気がする。きっとデバッグ中の貧乏自慢や徹夜自慢ばかりになるだろう。
 覆面座談会にすれば、少しはなんとかなるだろうか?
 でも、それでも肝心な事はやはり語られない気がする。
 もっとも、テーマだの何だのは、ユーザーが感じてくれればいい事であって、作り手が声高に語るのは意味の無い事なのかもしれないけどね。

 最後に。

 どうしてこんなにエロゲーが好きなのか正直言って良く解らない。この連載を書いている内に解るんじゃないかなぁ、などと甘い甘い期待を心のどこかでしていたのだが、やっぱり解らなかった。
 まぁこんな事は解らない方がいいのかもしれん。解ったらエロゲーをプレイ出来なくなるかもしれんし。

 そう言えばすげー心残りの事がある。

 それは・・・・・・。

 俺にも極私的なキャラの好みと言う物があって、外見吊り目で気の強そうなキャラとか、ニセ関西弁をしゃべる元気な眼鏡っ子等に滅茶苦茶弱いです。
 内面は気が強くて利発で意地悪で優しくて口が悪くて口が達者で対等で活発で暴力的でさっぱりしていてゲラゲラ笑うようなキャラ。

 だが、なんと言う事か!! 哀しい事にそういうキャラを書いた事がないのだ。
いつか絶対書く!! と固い決意を胸に秘め月に誓っていたのだが、結局PILでは一度もそういうキャラを書く機会が無かった。

 無理矢理出したく無かったということもあったのだけどね。

 そんなキャラと共にまた皆様の前に出現できる事を願いつつ、最終回を終わりたいと思います。

BY 『女郎蜘蛛』『MAID iN HEAVEN』『ドライブ・ミー・クレイジー!!』のシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

         さぁて最後の『エロゲーとわたし』は?

       最終回とか言って次があるとちょっと格好悪いですが、
                番外編です。
     ユーザーからの質問等にビシバシ答えようと言うサービス企画!!

     PIL受付嬢の天然甘栗さんの好意で実現することになりました。
               どんどんぱふぱふ

         一体どんな質問が来るか私も楽しみですたい。

          『エロゲーとわたし』番外編をお楽しみに!

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