『エロゲーとわたし』 連載第四回

 2000年4月6日。
 先週買ったエロゲーは三本だった。僕が落ち込んでいるエロゲー魔道の道はいよいよ暗くふか〜い。でも、この底知れぬ闇をさまよっているのが結構キモチイイ。マニアはあれもこれもみんな欲しいのだ。マニアの受難って奴ですか?

 という訳で僕は外道なゲームの企画書を武器に現実に立ち向かうことにした。
 エロゲー誌を片端から読み、現在人材募集中のエロゲー会社を幾つかピックアップした。自宅から通勤できる圏内で、出来るなら一時間以内、というあまーい考えで会社を絞り込んだ。一番魅力的だったのは大阪にある老舗だったが、なんと言っても大阪じゃ遠すぎる。我ながら贅沢な当時の僕。
 結局残ったのはストーンヘッズを含めて四社。ストーンヘッズともう一社は候補に含めたくなかったのだけど、二社だけでは余りに世間を舐めすぎている気がして、取り敢えず残した。でも、本命の二社のどちらかに就職できれば、問題は無い筈だった。
 まず、当時エロアニメのゲーム化で有名な会社に電話をしてから企画書と履歴書を送った。
 僕には何の根拠もない自信があった。これほど鬼畜外道なエロゲー企画はあるまい!! これだけ鬼畜外道でエロい企画なら一撃必殺入社決定!! エロゲー会社なのだからエロい方がいいに決まっている!!
 ああ、なんてうぶな僕だったのだろう。
 どきどきしながら結果を待った。一週間経っても連絡が無かった。WHAT?
あんな鬼畜な企画なのに・・・僕は不安になって電話をした。すると人事の人は非常に済まなそうに『君の企画、社長に読んで貰ったら、面白いんだけど、うちの作風には会わないから駄目だと言う意見だったよ』と言われた。
 はうぅぅぅぅっっっっっっ!! 意外な死角をつかれて僕はのけぞった。
 そうか、作風なんて物があったかぁぁっ!! 確かに鬼畜なゲームを出す会社じゃなかった。これは大失敗。
 だが、と僕は気を取り直した。面白いと言ってくれたんだから、作風が合う会社なら大丈夫って事だ。よし、次こそは!! 僕は送り返されてきた企画書を更に推敲してもっとエロく作り直して二社目に挑戦した。今度の相手は、この企画の発火点となったダンジョンRPGを出した所と同系列の会社だ。
 勝利間違いなしと繰り出した僕の攻撃は、一週間後に一枚の封筒に入ってそっくり送り返され、同封されていた不採用通知は冷酷な現実のハンマー、僕を脳天から打ちのめした。潰されて身長が一ミリくらいになった気がした。
 一体何がいけなかったんだろう? 事務的な不採用通知の紙切れを前に僕は頭を抱えたが、ただ宛名の部分を変えただけの不採用通知は何も教えてくれない。
お前なんかいらないんだよ。とその紙は告げるだけだった。
 こうなったら。どんな会社であろうと潜り込んで、僕を要らないと言ったこの会社を見返すような物を作るんだ。固く心に誓った。復讐のメロディの第一音目が脳裏に鳴り響いた!! ・・・とかだと格好いいのだが、その時の僕は真っ暗な未来にただうろたえ、残り少ない預金残高に首が絞まりそうで、気ばかり焦り復讐なんて考えもしなかった。
 もっとも今でもその会社の製品とか見ると意味もなく嫌な気分になる。
 追いつめられた僕の前に残された会社は二つ。外道で鬼畜な企画書の内容と社風をつき合わせて考えると結論は明らかだった。それにストーンヘッズでない方の会社は評判も悪かった。
 だが・・・僕は企画書をまたも書き直しながら、決断をためらっていた。
 ストーンヘッズ。
 代表作はSM調教SLG『SEEK』・・・と言うか、当時はそれ一本出していただけだった。だがSM専門を唱っていてマニアの間には知名度は高かった。
 そのSM専門と言う言葉が怖かったのだ。
 SM専門と言うからには、社員はみんなアレでコレでソレな怖い系の人達で、両刀遣いでピアスに入れ墨というイメージ。そんな所に飛び込んだら自分などどんな目に遭うか解らない。恐ろしか所に違いない。まるでニューヨークの裏通りに無防備で飛び込むような危険な匂い。
 評判が悪い会社か、恐ろしい会社か・・・究極の選択でもしてる気がした。だが、金は底をつきかけ僕には時間が無かった。
 こうなったら、と半ば自棄になって決断を下した。どちらに行っても駄目な道ならせめて家から近い方が良い。となるとストーンヘッズの方だ。いやな決断だったが我が儘を言える贅沢は僕に無かった。
 さっそくストーンヘッズに電話を入れた。若い感じの男の人が出た。企画書と履歴書を送る事を伝えたら、その人はあっさり『企画書と履歴書もって会社まで来られませんか?』と言った。
 一瞬、言葉がつまって返事が出来なかった。
 僕は取り敢えず履歴書と企画書を送ったら、のほほんと返事を待つつもりだった。SM専門などと言う魔界に乗り込むのは、もう少し先延ばしにしたかった。
だがそんな僕の怯懦を見透かしたような言葉。やはり世の中は甘くないのだ。
 心の準備が、と喉まで出かかったが、何度も言う様に僕には我が儘を言える贅沢は無かった。明後日直接会社で面接しましょう、と言う事になって電話は終わった。

 電話が切れた後、心の底から憂鬱な気分になった。一体僕はどうなってしまうのだろうか? 明後日が来て欲しくなかった。だが、就職しないと金が無くなるのは自明の理だった。金さえあればの二十代。
 たちまち約束の日が来た。僕は暑い夏の昼下がり、とぼとぼと歩いてストーンヘッズへ向かった。地下鉄で行く金すらもったい無い経済状態。初めて行く場所だったので考えていた以上に時間がかかったが、約束の時間には目的の場所へついた。平凡なマンションが目の前にそびえていた。
 ついてしまった・・・・・・。
 ついについてしまった・・・・・・。

 当時ストーンヘッズはマンションの一室に在った。
 入ると社内は一望で見渡せた。それくらい狭かった。
 細長い部屋の奥の方では、眼鏡を光らせた怪しげな人達が、モニターを前に何事か怪しい事を相談していた。飾り棚に荒縄と手錠が飾ってあった。手前の応接用のテーブルが置いてある場所のすぐ隣には、足をVの字型に拡げ黒いレースのガーターを付けた下半身だけのダッチワイフが鎮座していて、その股間にはトイレットペーパーの芯が突っ込まれていた。
 青白く光る社員らしき人達の眼鏡。その奥の恐ろしい眼差し。
 怪しい姿態をさらすダッチワイフ。
 そしてハードロックバンドの物らしいポスターが一面に貼られた壁。
 狭く。怪しく。色々な意味でアブナイ匂いのする社内。

 ここは僕が居られる場所ではない。きっと非道い目に遭う。そうに違いない。
来たのは間違いだった。これをどうやって切り抜けようか? だが、企画書を見せるまでは逃げるわけにもいかない。これは進退窮まった。
 まともそうに見える女子事務員がお茶を出してくれたが、それも不安を高めるだけだった。なぜこんな会社にまともそうな人が? それが逆に不思議で、僕の妄想のマブチモーターは、ぎゅいんぎゅいんと回転を速めた。

 ああ、逃げたい逃げたい!! 今すぐ、さっさと、光速より速く!!

 そんな事を思っていると、電話で聞き覚えのある声が僕を呼んだ。我に返って前を見ると、痩せて、ひょろりとした男がテーブルの向かい側に座っていた。大学の先輩でロックバンドをやっている人に雰囲気が似ていた。その人の事は嫌いでは無かったけど、会社の経営者になれる様な人では無かった。
 つまり、まともな勤め人には到底見えないと言う事だ。

 この人が社長と聞いて、僕はますます不安になった。今にもこの会社は潰れるんじゃないか、とまで思った。
 もう逃げるしかないと、救いを求めるように視線をさまよわせた。だが状況を一変させる様な強力なアイテムが落ちている訳も無かった。もしこれがゲームだったら、すぐさま直前のデータをロードしただろう。
 だが、これは現実だった。
 怪しい人と話ながらも視線をさまよわせていると、応接用のテーブルの脇に飾られているエロゲーのパッケージの内のひとつに目が留まった。
 僕はそのゲームが好きだった。
 大いに笑えるゲームだった。
 思わず聞いた。どうしてこのゲームがここに飾ってあるのか、と。

 ああ、それ俺が作ったんだ、と、男は事も無げに答えた。

 その瞬間、僕にとって全てが変わってしまったのだった。

 というわけで、今回はここで時間で御座います。
 では、また来週!!

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
           魔窟に迷い込んだ失業者独り!!
         そして彼の前に現れたいかにも怪しげな男。
          逃走の決意を固め逃げ道を捜す二つの瞳。
          そんな彼の目に映ったエロゲーソフトは
         一体、彼の認識に電撃的な何をもたらすのか?

            次回にご期待下さい!!

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