『エロゲーとわたし』 連載第六回

 『エロゲーとわたし』 連載第6回

 2000年4月26日。そして27日

 愛と勇気と冒険が一杯の怒濤の連載巨編!! エロゲーとわたしももう第六回となりました。早いものでス。年をとるわけでございまス。
 今週の金曜日は秋葉原は凄い事になっているでしょう。初回特典が欲しくて朝からエロゲー売り場に並ぶ人々で行列発生確実。神の子供は皆踊る。勿論俺も踊ります。今週は5本は購入確実!! エロゲー魔道は何処まで続く?
 で、当日、踊りました。いつもより益々踊って5本どころか・・・いっぱい買ってしまいました。こういうオチかい。余程エロゲーの神様はわたしを愛していると見える。愛されすぎて男冥利につきるけど、困ってしまいます。たださすがに等身大ポップは貰わなかったけど・・・・・・。

 さて先週の続き。

 『犬』で主人公とSEXすると女達は犬になってしまう、というのはカフカの『変身』が元ネタである。バレバレだ。それから後に『PilcaSEX』という題名でKKベストセラーズから出版された小説に収録された『犬』とゲーム版の『犬』は全くの別物なので誤解無きように。小説の方には俺は全く関与してい
ません。一応こうしたらいいんじゃないか、というような事は言いましたが、ほぼ無視されました。

 さてゲームの方へ話を戻して・・・・・・。

 最終のプロットを出した時、25枚のイベントグラフィックをどういうシーンに割り振るかも書いて出し、次は、それを叩き台にコンテを描く事になった。絵コンテが描けなければ字コンテでもいいと言われて胸を撫で下ろした。実を言うと大学時代、数ヶ月ばかり漫画家になろうと結構真剣に考えた事があって、手近にある消しゴムを鉛筆デッサンしたり、うたたねひろゆきの絵を模写しようとしたが勿論挫折した。真剣と言ってもその程度である。根性が無いのである。
 そんなこんなで出来上がった『犬』のコンテは、何が描いてあるのか判別不明の絵コンテ数枚と、情報が整理されていなくて解りにくい字コンテだった。
 判別不明と言うのは文字通りで、余りにも下手すぎてなんだか解らないという事だ。情報が整理されていないというのは、つまり、絵に余りに色々な情報を盛り込もうとした結果、時系列的に並列し得ない事が同一画面にある様に記述してあったりする事である。つまり右手を上に挙げながら、右手を男の肩に廻したりする。・・・と言ったシュールな光景である。連続したシーンを一つの絵に詰め込もうとした結果起こる怪現象。アニメじゃないんだから無理に決まっている。
考えただけでも頭が痛い。
 この時は幸い(?)田所さんが、コンテにエロさが足りない!! と、いろいろ手を加えたらしく(らしく、と言うのは俺の知らない所でこのコンテの改訂が行われたからだ)、俺の駄目さはカバーされたのだが、『女郎蜘蛛』の時にもこれをやって原画家のめーるさん(さくらめーる。現ふじみやみすず)を、さんざん怒らせてしまった。進歩のない俺。
 と言うわけで、なんとか満身創痍のコンテも通り、俺は『犬』を担当する原画家さんに紹介された。これがめーるさんとのファーストコンタクト。
 原画家!! この人が原画家!! ゲームの絵を描く凄い人が、生で俺の目の前に現れたのだ!! 俺は本当に感動して叫んだ。
「ああっっ!! 本物の原画家さんだ!!」
 動物園で初めてパンダを見た幼稚園児の様な感想に、めーるさんは困った様な顔をし田所さんは笑った。この時はただ紹介されただけで打ち合わせもしなかった。実は『犬』の絵に関して、めーるさんと話し合った事は一度も無かった。だから絵が上がってくるまでは、それがどんな絵なのか俺は全く知らなかったのだ。
めーるさんの方もバグチェックをするまで『犬』がどんな話か知らなかったらしい。おあいこである。
 さて、プロットもコンテも上がってしまったら、次にする事はシナリオである。
だが、この時点でも俺は自分がシナリオを書くとは思って居無かったのだ。予測くらい付きそうな物だが、人間嫌な事は見えない物なのだ。
 だが、そんな逃げたがっている俺に冷酷な宣告が下ろうとしていた。
「次はシナリオだね」
「そうですね・・・・・・」(誰が書くんだろう?)
「ゲームのシナリオを書くのは勿論初めてだろう」
「ええ」(どうしてこんな事訊くんだろう・・・? ←馬鹿)
 と本当に頓珍漢な事をのほほんと考えている俺に、田所さんは一枚のフロッピーを手渡した。五インチだった様な気がする。時代を感じる。
「これに『SEEK』のシナリオファイルが入ってるから、参考にして」
 なんの参考だろう。と俺ののほほんぶりはまだ続く。
「シナリオ形式にするのが難しいなら、取り敢えず小説の形で書いてみてよ」
 書いてみてよ?
 もしかして、俺? 俺が書くの?
 予想もしなかった事態の急変に俺は内心狼狽した。

 高校時代は文芸部。大学時代はSF研究会に所属していた俺は、如何にも小説でも書いていそうだが、実際はかなりへなへなだった。書きかけた小説は両手両足の指で数えても数え切れない程あるが、大部分は書いていて余りに面白くないので出だしの数枚で挫折、完成したのは片手で数えられる程度で、完成品の内一番長い物は高校時代に書いた四百字詰め原稿用紙四十枚強のファンタジーだった。
一番量を書いた話は、失業中余りにお金が無くてゲームも買えなくて娯楽が無い時に書いていた奴で、百枚を越えてはいたが未完成だった。
 ちなみに今でも未完成のままである。
 大学時代、社会人時代。俺が書いていたのは詩ばかりだった。中島みゆき、谷山浩子、たま、ユニコーン、原マスミ、Nav Katze、少年B、クララサーカス、ムーンライダーズ、ジャックス、中原中也、萩原朔太郎、穂村弘などが好きだった。出来た物は現代詩と歌詞の中間の様な物だった。暇があれば書いていた。
一つの詩を二ヶ月かけて推敲した事もあった。詩の良い所は小説より圧倒的に短い事で、小説と違って完全にコントロールする事が出来た。出来は、まぁそれなりの物だったけど・・・本人しか見ない物だったからそれで良かった。長い物(小説)が書けるとは、正直な所思っていなかった。

 だが、ここで「てへ、書けません」と言うわけにはいかない。そんな事したら外注レースで脱落する。するとお金が貰えなくなる。
 だから俺は「いつまでに書けばいいでしょうか?」と結構平然とした顔で答えた。人間追いつめられると図々しくなる。
 正直言うとこの辺記憶がかなりあやふやで、本当は狼狽しまくって「ま、まぁ・・・俺が書くしかないですよね・・・」とか答えていたのかもしれない。
 だがどちらにしろ、俺がシナリオを書くと決定した事実は変わらない。
 サイは投げられてしまった。やるしかなかった。

 重苦しい気分で家に帰り、パソコンの前に座った。取り敢えず小説形式で書く事にした。VZエディターの機能を使ってパソコン上で作業をする事にした。
 実はパソコン上で文章を打つのは初めてでは無かった。詩はノートにシャーペンと消しゴムで書いていたし、小説はワープロで書いていた。では何を書いていたかと言うと、ゲームのシナリオである。
 この頃、ゲーム内のシナリオファイルをVZエディタで書き換えられるエロゲーが幾つかあって、その内の一つ「鬼○女子○務所」を書き換えまくって遊んでいた事があったのだ。エロシーンも書きたしたし、ストーリーもかなりいじくった。知らず知らずのうちに予行演習をしていた様な物だ。人間何が役立つか解らない。偶然とは不思議な物である。
 俺に小説が書けるだろうか? しかもエロシーンがやたらとある小説を・・・他人が書いたシナリオを遊びでいじくるのとは違う。生活がかかっている。同じ気持ちでは出来ない。困った困った困った困った。
 だが悩んでも仕方がない。気休めに綺羅光、杉村春也の小説を手元に並べ読み直してみた。美人母娘が互いの見ている前で強姦されたり、美人姉妹が露出調教を受けたり、裸でダンスを踊らされたり、ヘアがはみ出るほど丈の短いスクール水着を着せられたりしていた。団鬼六を思い出せば武芸に優れた若後家が入浴中を襲われて手拭い一つの格好で戦ったりしていた。こんな文章を自分で書くのかと思うと気が遠くなる気分だった。大学時代サークルでトランプばっかりしていないで小説を書いていれば良かったと、しても仕方が無い後悔もした。
 時間だけが経っていった。
 確かに目の前にプロットはあるが、どういう書き出しにすればいいか解らない。
全ての組み込むべき部品のリストはあるのだが、部品をどう作るかが解らない。
それにエンディングも問題だった。どうしてそのエンディングになるのか、その時点では俺にも解っていなかったのだ。なぜ主人公とヒロインのみが残されるのか、全然解らなかったし思いつかなかった。

 結局、一行も書けないまま数日が経った。朝は日比谷図書館へ出勤し、昼は神保町へ、夕方には帰宅という日々が続いた。焦っていたが、どうしようも無い。
書こうとしても書けない。既にプレイしたエロゲーをまたプレイしたりもした。
単なる現実逃避と言う奴だ。だがそう言う時のゲームプレイはいつもより楽しい。
腹が減っていると、どんな物でも旨く感じられるのと同じだ。試験勉強中に読む
小説が面白いのとも同じだろう。

 そんなある日、俺はある光景を見た。
 確か、神保町へ行く途中。気分転換の為にいつもと歩くコースを変えていた。
すると初めて通る見附が見えてきた。もしかしたら初めてでは無かったかもしれない。でも今までは気に留めた事など無かった。
 見附と言うのは、昔の江戸城、今の皇居を取り巻く防衛線である外堀に作られた城門の事である。東京、特に千代田区には何カ所もあり、四谷見附、赤坂見附など今でも地下鉄の駅名になどなっている物もある。千代田区のど真ん中を流れる日本橋川は、実は江戸城の堀だったのだ。

 オフィス街のど真ん中にある見附には人の気配が無かった。雨の匂いがした。
 コンクリートと金属の建築に囲まれた見附は、まるでそこだけ異世界みたいだった。
空は雲に覆われ今にも雨が降りそうで、見附は薄暗がりに沈んでいた。
 冷たい石に覆われた見附にはカラスが数十羽いて、でも静かだった。車の音が妙に遠くに聞こえた。まるでここだけが色も時間もない世界の様だった。
 静かに、本当に静かに雨が降り出した。

 これだ。と俺は思った。雨の匂いがする水没していく街が頭に浮かんだ。

 家に帰ると、今まで書けなかったのが嘘の様に『犬』は進んだ。
 何もかもが不明のまま滅びへと向かう世界。其処はいつも水の匂いがして、腐敗していく。人は次々と犬になり、壊れかけたラジオから流れるのは不安を誘うだけの断片的な情報。増えすぎた犬を狩るための『犬殺し』と言われる存在が徘徊する。既に世界は喪われてしまっている・・・・・・。
 今まで見てきた映画や、小説の断片が次々と浮かんでは俺に書き進める力を与えてくれた。不思議な感じだった。書いている内に最後まで書けるような気がしてきた。それはいつのまにか確信に変わっていた。
 数日が経った。あれほど怖れていたエロシーンも、なんとか書けた。勿論苦しかったが、なぜかもう書けないとは思わなかった。そして最後、流れの儘に書いていったら、全てが落ち着くべき所へ落ち着いて勝手に・・・そう計算とかそういうのじゃなくて自然とエンディングが書けていた。書いて書いて書き続けて、時間はもう朝になっていた。でも怖ろしい程の満足感で俺は心地良かった。自分でも最後までやりとげられた、と言うのは心地良い驚きだった。
これが全ての始まりだった。シナリオライターの快楽というやつだ。
 これが味わえなかったらシナリオライターなんてやりたかない、と思わせる程の快楽だ。

 実は、『犬』にはどうしようもない欠陥がある。プレイヤーへのサービスが皆無である事だ。独りよがりで、陰鬱で、書きたいことを書きたいように書けるだけ書いただけだ。田所さんも良くこれでOKを出した物だ。ほとんど私小説である。失業中の鬱屈や恐怖が色濃く刻印されている。実際ユーザーには不評なゲームでもあった。
 でも俺は今もって『犬』を愛している。後に俺のシナリオに出てくる要素の大部分がここには既に含まれている。たまに読み返すと、そのういういしく無防備な文章に苦笑する。
 俺にとって『犬』は書かれる必要があった作品なのだ。

 『犬』は俺をシナリオライターにしてくれた、と日記には書いておこう。

 まぁ、こんな所で今回はおしまい。ちょっと重くて長くてごめんなさいね。

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
          『犬』の小説版が完成しそれをゲームに
             改造する作業も終了した。
              念願の金も手に入った。
         そしてついにストーンヘッズへの通勤が始まる。
               だが・・・・・・
       『僕はそんな人間じゃないんです信じてください!!』

              次回にご期待下さい!!

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