『エロゲーとわたし』 連載第七回

 2000年5月11日。

 さて、この連載も第七回。
 二週間間が空いてしまったので、どんな事を書いていたか忘れた俺は、
前回の文章を読み直して見た。

 読むんじゃ無かったと思った。

 さてさて、そんな訳で『犬』の小説版は完成した訳です。
 小説版を読んだ田所さんは、わたくしに、次女が三女を虐待する動機を説明するくだりは削除した方が良い、と忠告してくれました。
 田所さんいわく『理に落ちた動機の存在を語ってしまうよりも、理不尽に虐められているとした方が、シナリオ的に深く見えるのでは無いか?』
 わたくしの方も『言われて見れば、そうかな』と、大いに自主性の無さを発揮して、あっさりと指摘された箇所を削除したのです。
 現在、どういう動機だったのか覚えていない所から判断すると、そう大した動機では無かったのだろうな、と思います。

 確か、わたくしが『犬』の小説版を書いている期間中に、ストーンヘッズは引っ越し、中目黒のマンションの狭い一室から、池尻大橋にほど近いマンションの一室に引っ越したのだと、思います。
 ちなみにキリヤマさんは、この時期に入社したので、入社していきなり引っ越しに付き合わされたのだそうです。
 『SEEK』のヒットで羽振りが良くなっていたのでしょう。

 実は、この辺の記憶は曖昧模糊なのです。

 ストーンヘッズとわたくしが外注契約を正式に結んだのは・・・池尻大橋でだった様な気がするのですが、中目黒だった様な気もします。
 契約書には、『甲』だの『乙』だの言う文字が乱舞していて、読めば読むほど難しく、怖い気分がした記憶があります。
 読んでいる最中に、わたくしの脳裏に浮かんだのは、『エリア88』で風間真がアスラン外人部隊への契約書を書かされる光景でした。
 でも、兎にも角にもお金が欲しかったわたくしは正式の契約を結んだのです。

 銀行に金が振り込まれたのを確認した時は、思わず笑みが口元にあふれてしまいました。現金自動支払機の前で、にやにやと笑い出した見るからにオタクっぽい男・・・余り見たくない光景です。

 さて小説版が完成したからには、次にそれをゲームにしなければなりません。
わたくしは、田所さんから渡された『SEEK』のゲームシナリオを元に作業を始めました。
 『犬』は今となっては昔懐かしい『コマンド総当たり』形式のゲームです。
 『コマンド総当たり』形式と言うのは、『見る』『訊く』『話す』『なめる』
等のコマンドを選択していく事で、フラグを立ててゲームを進行させていくゲームシステムです。
 今では、このシステムは廃れてしまっていて、Kと言うシナリオライターしか使いませんが(この人だけが使いこなせる、と言うべきか・・・)、当時は良くあるタイプのシステムだったのです。

 さてゲーム化に当たり、小説版を、そのまま分解してコマンドに当てはめていくとコマンド数が足り無い様な気がしたので、描写や動作をかなり付け加えたのですが、その行為は当然ながら、シナリオを肥大化させると言う結果を生みました。今思えば、これは大きな失敗だったのです。
 『犬』のストーリーは、状況は異様な物の、大した山も谷も無く淡々と進んでいくので、シナリオの増加は余りいい結果をもたらさなかったのです。
 淡々とした進行がより一層引き延ばされて、プレイしていると苦痛と言うレベルになってしまったのです。
 ですが当時のわたくしは愚かにも自分の改悪が何をもたらすかに気付きませんでした。コマンド数を増加させて一回のプレイ時間を四時間以上にする事で、コストパフォーマンスを上げようと必死だったのです。
 この世には、しない方が却って良かった努力と言うのがあるのでした。
 この改悪によって、『犬』はユーザーサポートで『ねむくなる』『何がなんだか解らない』『書いた奴は死んでしまえ』『金返せ』『素直にノベルにすれば、ただの詰まらないで済んだのに』『怒』『クリックするのに疲れた』等の罵声ばかりを浴びる物になってしまったのです。『PILcaseX』中、もっとも評判の悪い作品です。ごめんね『犬』。お父さんが馬鹿で。
 愚かでした。わたくしが愚かで御座いました。

 さて、『犬』のゲーム化も終わりに近づいた頃、田所さんはわたくしに、ストーンヘッズの社員にならないか、と訊いてきました。
 三ヶ月程の試用期間の後、正社員にするかどうかを決めるのだと。

 わたくしは犬の様に、一も二もなくそれに飛びついたのです。
 尻尾があれば間違いなく振った事でしょう。
 もう蓄えは完全に底をつき、最早就職活動をする気も無く、自らの愚かさが招いた毎月のローンの返済もピンチだったからです。
 それに『犬』を完成させた事で、エロゲーシナリオライターとして、なんとか成るかも知れない・・・と思うようになったからです。
 それに、田所さんと言う人が、第一印象に反して、ただ危ないだけの人でない、
と言う見極めがついた様な気がしていた、と言うのも大きかったのです。

 実はストーンヘッズ社内でも、外注期間の間、わたくしの事を見極めていたらしいのです。田所さんは『変だけど、まぁシナリオは書けそうだし、どことなく変人でいいじゃん』と言っていたらしいのですが、『あんな性格の破綻してそうなオタッキーで犯罪でも起こしそうな奴と仕事をするのは嫌だ』という意見も強かったらしいのです。
 やはり、最初に持ち込んだ『陵辱、輪姦、強姦、獣姦、死姦、人格破壊、身体改造、調教、薬物なんでもござれの暗黒どろどろゲーム』企画が悪かったのでしょうか? 第一印象は人付き合いの上で大切だと言う得難い教訓です。
 取り敢えず試用が決まった時も『別にいいけど、奴が何か犯罪をおこしたりしても俺は関知しないから』という強硬な主張は止まなかったそうです。
 『赤ん坊でも食ってしまいそうな電波系の危険なオタク』と言うのが、わたくしに対する社内イメージだったのらしいです。
 そんな奴いたら、わたくしも怖いです。

 取り敢えずやる仕事は制作中のゲーム(『学園ソドム』)のデバッグ。
 それが終わったら、ほぼ100パーセントエロシーンの外注ゲーム(『SEX2』、シナリオのみストーンヘッズ。発注元アーヴォリオ)のシナリオ。
 それと平行して、制作中の外注ゲーム(『スーパーエレクト大戦SEX』、ゲーム全てストーンヘッズ制作、発注元ダイナミックプロ)のシナリオアシスト、女の子数人のエロシーン。

 わたくしは、『犬』一本でもヒィヒィ言ってた様な人間なので、上記の仕事内容を聞いた時、一瞬だけ目の前が真っ暗になりましたが、なんとかなるか、いやなんとかするしかない、と曖昧なジャパニーズスマイルを浮かべたのです。

 こうして、わたくしはストーンヘッズの試用社員になる事になったのです。

 で、今週は、これにておしまい。

BY ストーンヘッズシナリオライター まるちゃん改め丸谷秀人でした。

PS              次回予告!!
             ただのエロゲーおたくが
              希望に胸膨らませて
             魔窟に足を踏み入れた時
             最初に待っていた試練は
            ひたすらなデバックだった!!

              明日もデバック!!
               毎日デバック!!
              どんどんデバック!!
              がりがりデバック!!

              あううう・・・・・・。

              次回にご期待下さい!!

←前ページ   次ページ→

丸谷秀人の部屋topへ

<開発通信へ戻る>